【中国】社会信用システム。ブラック&レッドリストへの道のり。No.5
社会信用システムは一体どこからどのように情報を持ってきて、どのような道のりを経て点数がつけられ、ブラックリスト、またはレッドリストに分類されるのか?
社会信用システムの全貌をシリーズでお届けしています。
1.社会信用システムは社会に浸透してる?中国のサイト「百度」を徘徊調査してみた。
2.社会信用システム。「信用中国」から知れる情報。ブラックリストの統計。
3.社会信用システム。加点と減点の基準は?
4.社会信用システムに関する海外の情報と反応(ドイツ、台湾、香港)。
「社会信用システムは決して一つに統制されたシステムではない」というのはオランダのライデン大学中国問題学者のRogier Creemers教授1。
また、北京大学の金融智能研究中心主任助理劉、新海氏も中国の社会信用システムが1つに統合されているというのは誤解で、現在3種類あるという。
そのシステム全貌はどうなってるのか?
とても興味深いグラフがありました。
このグラフによると、レッドリストとブラックリストへの振り分け過程は3段階になっています。
1段階目は情報の収集。
2段階目は収集された情報の集約。
3段階目は集約された情報の振り分け。
さらに、グラフには黒い線と点線の2種類の線がうようよとしています。黒い線は政府の情報機関が通る経路、そして点線は民間企業です。2つの機関が同じ情報を得て評価するというしくみだそうです。
まずは3段階の過程を詳しく見てみましょう。
1.個人情報の収集
主に金融情報と非金融情報の2つから来ます。
金融情報は、銀行講座、税金やローンの支払い、消費、取引などの個人データが収集されています。消費のデータが取れるようになったのは当然、現金ではなくアリペイやウィーチャットで決済をするようになったから。上海では今や現金で支払うのは(中国に銀行口座を持っていない)外国人だけ、みたいな状況です。
非金融情報は戸籍や身分証からのデータ、犯罪歴、旅行歴、インターネットの発信歴を収集しています。旅行のデータというのは、中国のすべてのホテルは顧客情報を政府に送る必要があります。そのため、身分証やパスポートの提示はもちろん、写真と指紋までとるホテルもたくさんあります。
長距離列車やバスの切符を買うときも必ず身分証を提示しなければならないので、誰がいつどこに移動したのか、という情報は収集されています。
またインターネットの発信歴だけではなく携帯のSNSのやりとりなどもすべて収集。町中の監視カメラから映像も収集の対象だろうと予測できます。
このような「国民がいつどこに行き、何をしたのか、何を買ったのか」を収集するのが非金融情報です。
2.情報の集約
1の段階であらゆる機関から収集された金融情報と非金融情報はすべて、政府と民間企業に送られます。ソフトウェアの開発などに携わっている複数の民間企業の協力は、あまりにも多すぎるデータ情報の収集と集約に必要不可欠なのでしょうね。
しかし、民間企業から政府に向かって直接矢印が伸びているのは、政府には民間企業のするすべてを報告、または指示を仰ぐ必要があるのだと思われます。
3.情報のカテゴリー化
さて、様々な情報を集約した政府は次に、4つの大きなカテゴリーに分けます。
1.政府に対しての誠実さクレジット
2.犯罪クレジット
3.社会信用クレジット
4.経済(金融)クレジット
そしてさらにこの4つの大きなカテゴリーから小さなカテゴリーに分類されていきます。
1.政府に対しての誠実さクレジット → 4項目
2.犯罪クレジット → 6項目
3.社会信用クレジット → 10項目
4.経済(金融)クレジット → 13項目
この4つのカテゴリーの中で、民間企業が携わるのは3と4だけ。政府は1~4のすべてを振り分けます。そして小さな項目に分ける過程で民間企業はいなくなります。小さな項目にカテゴリー分けされた結果、レッドリストとブラックリストに入れられる人が決まっていくというわけです。
4.レッドリストへの道シュミレーション
では創造力の力をかりて、個人の行動が評価された例を考えてみましょう。
少し前に社会信用システム調査No.3の記事で、加点と減点の基準を調査しました。この実例を上記のグラフにあてはめて考えてみます。
シュミレーション内容
一日に2度財布を拾った「幸運な人物」蒙阴の英語教師耿さん。財布の持ち主は謝礼を払おうとしたが、断固拒否した。
英語教師の耿さんはある日、落ちている財布を見つけたので警察にもっていった。落ちていた場所など詳しい状況を話し、記録してもらった。すると運よく財布の持ち主が見つかり、耿さんにとっても感謝して謝礼を払おうとしたが耿さんは受け取らなかった。そのかわり、記録に受け取らなかった事実を書いておいてとお願いした。
警察が記録したデータは当然、すべて政府に送られる。このような小さな落とし物の記録も送られたに違いない。警察の記録はほとんどは「犯罪データ」に分類されるだろう。落とし物のデータは犯罪にカテゴリー化されるかわからないけど、とにかく1段階の収集時には「非金融情報」として、政府と民間企業に送られているに違いない。
そして政府と民間企業は4つにカテゴリー化する。人がするのか機械が自動にするのかわからないけど、耿さんの落し物のデータはとにかく3番目の社会信用クレジットに分けられる。なぜなら他の3つは明らかにあてはまらないから。
そこからまた小さなカテゴリーに分けられる。ここからは政府しか関与しない。社会信用クレジットカテゴリーには10この項目があるというけど、詳しくは分からない。
とにかく耿さんの例はレッドリストの中の「誠実な人柄と態度」項目なんかがあれば、そこに分類されただろう。
つまり政府が、数ある落し物データの中で「1日に2度も財布を交番にとどけ、しかも報酬を受け取らないとは他にない例だ。なんと素晴らしい」と判断した。機械か人かわからないけど。
そしてめでたく耿さんはレッドリストにのったということだ。もちろんこの一度ではなく、何度かプラスをもらえるようなことをした後だろうけど。
すべてのデータがこのような過程で評価されているのだろう。昔はこのデータが、反政府発言や犯罪など比較的重い案だけ同じようにカテゴリー化されていた。
社会信用システムっていうのは、財布を拾ったような些細な行為も評価できるようになった、って話ですね。つまりシステムの応用ってこと。
5.社会信用システムは決して新しい試みではない
ここまで見ると、2014年に政府が発表した「社会信用システム」というのはなにも一から始まるわけではなく、既に存在している中国監視システムの中の一部に組み込まれただけのことだ、ということが理解できます。
たとえば犯罪を犯した人は前から全国法院失信被执行人公布のサイトで個人情報が公開されているし罰せられています。ブラックリストも存在しています。
つまり社会信用システムの点数制度は、ITの発展で今まで監視しきれなかった細かいところまで監視できる技術がでてきたことから、じゃあ犯罪になる以下の細かい行いまでそろそろ統制しよう。みんなが集団で協力できないようにもっと見張っていなくちゃ、ということですでにあった大きな監視システムを、さらに拡大してみたってことです。
――――
いやいや、でも日常のそんなに小さなことまですべて監視し、評価しきれるのでしょうか?いくらAIが優秀だとは言え、そこまで発達していたっけ?
個々の携帯やネット情報、町中の監視カメラなどの膨大な情報の中から、すべての14億人の個々の評価が平等にできるのでしょうか?
ITの技術は、日々膨大に増えていくこれら14億人の行動、情報をすべてさばけるキャパがあるのでしょうか?
ITの知識がない私には夢物語にしか思えないのですが、今日見たレッドリスト&ブラックリストへの道のりの第一段階、情報収集に関する社会信用システムの問題点を次回、考えてみたいと思います。
続く。
社会信用システムの過去の記事