【中国】社会信用システムに関する海外の情報と反応(ドイツ、台湾、香港)。No.4
シリーズでお届けしています。
中国のサイトでは全く見つからない加点と減点の基準が、海外のサイトではいとも簡単に載っていたりします。そしてやはり欧米系のサイトは情報が豊富だなと感じます。
中国の社会信用システムについて、海外のサイトはどのような情報が載っているのか、大手のニュースサイトを中心に情報を集めてみました。
1.ドイツ雑誌“Manager Magazin”の情報(2018.2)
ハイデルベルク大学のMarkus Pohlmann教授による独自の調査で、信頼性は高そうです。試験的に行われた具体的な県の情報が書かれてあります。
1)献血をすれば加点。
2)一人で大きな家に住めば減点。
3)小さい家にたくさんの人が住めば加点。
4)一人で大きなワゴンにのって通勤してる人は、借りた自転車で通勤してる人よりも減点。
5)借金を返済できない人は飛行機や長距離電車の切符を変えない。(行動を制限)
6)交通違反は減点。
7)遅刻、ドタキャンは減点。
江苏省睢宁县で実際にあった具体的な点数の例では、それぞれが1000点を持ち、400もの良い行いと悪い行いの方向付けがされたといいます。たとえば
1)親の面倒を見なかったら50点減点。
2)お役所に抗議をしたら50点減点。
3)ネットやSMSである人に対し間違った批判をしたら100点減点。
4)社会に対し誠実な人が道で見知らぬ老婆を助けたら10点加点。
5)政府からの推奨を受けると100点加点。
といった感じ。
また、試験的に行われた上東省の荣城ではこの点数をさらに、A+、A、B、C、Dの五段階にランク付けをしました。A+は1000点以上、Cは600~849点の間、また599点以下はDにランク付けされます。
A+とAの人には人生において自由な選択を与えられ、CとDの人には大幅な制限が設けられました。
たとえば、融資を受けられない、住居を自由に買ったり借りたりできない、良い仕事や子供が良い学校に行く道を絶たれる、などだそうです。
しかしこれは新たなゲームの幕開けとも取れます。このような基準ができたところでいくらでも欺く方法は生まれるからです。たとえば一人で大きな家に住みたければ架空の同居人を登録すればいいだけだったり、一人で大きな車で通勤したければ、従業員に一緒に乗っていると証明させればいいだけだったりします。このようにいくらでも裏をかく方法はあり、完全に監視、平等にはいかないのがこのシステムの課題でもあるという見方もしています1。
2.ドイツラジオ局“Deutschlandfunk”の情報(2018.6)
最初の記事にも出てきた上東省の荣城は、2014年にいち早く試験的に社会信用システムが始まった場所です。この町で起きていること、行われていること、またその結果を調査した記事です。
約67万人の住民は、定期的に社会信用システムを提示する必要があり、さまざまな場面で点数が重要視されるということ。たとえば昇進や結婚相手の選定といった人生の最重要事項も点数で判断したり、左右しています。
個人の点数は最初は1000点から始まり、1050点に達すると最高のAAAランクになるそう。1000点以下はBランクとなり、特別な優遇が受けられなくなったり昇進の話が流れたりするのだそう。
ある42歳の公務員の男性が会社で昇進の話が出ているため、ドキドキしながら社会信用システムの点数をチェックしに来ていました。昇進のためには最低A(1000点)が必要です。
結果彼の点数は、赤信号無視で5点引かれていたものの、仕事の業績で20点のプラスがあったので合計1015点。A+の評価でした。
もし20点のプラスがなければ、赤信号無視の5点引きで995点。つまりBランクに格下げ&昇進もなしになったということ。
けっこうな危機一髪間。
それだけ社会信用システムの点数の重要さがうかがえます。
信号無視=マイナス5点。具体的。
またA評価以上はレッドリスト、それ以外はブラックリストに分けられており、レッドリストの方は入学許可、保険契約、社会福祉などで優遇され、C(849点から下)以下になると監視対象になります。Dランクになってしまった人は社会福祉から排除されたり、管理職になれなくなったりするそうです。
ブラックリストに入れられてしまった27歳の男性の例もあります。
第三者の保証人になり、その人がお金を返さなかったために罰を受け、飛行機と長距離列車のチケットを買えなくなった。それは2016年の11月からで、今も買えることはない。
と言います。第三者がお金を返すまでこの男性も罰を無期限で罰を受けるということでしょうか。
また、すべてのネットワークが監視対象にされているため、たとえば一日10時間ビデオゲームをしている人は怠け者とみなされ、買い物のデータからおむつを頻繁に購入する人は親としての責任感がある程度高い、などとみなされたりもします。
このように、一人ひとりのすべての行動が、町中の監視カメラだけでなくあらゆるデータから取り出されていることに恐怖を抱く人は少なくありません。
荣城市のある小さな村(住民560人)では毎月25日に、社会信用システムの点数がアップデートされ、住民が確認をします。特に点数の高い人々は村の掲示板に写真が掲示され、誇りになるようです。掲示板には4つの美徳(良いふるまい、両親の世話、他人を助ける、犯罪行為をしない)に分類されており、誰がどの分野の得点が高いのかが示されているそうです。
この村の聴き取り調査では、人々が点数を気にするようになり、行動が大幅に改善したというポジティブなものばかりです。習主席が目指す「調和のとれた世界」は、この560人が住む村ではうまく回っているという良いモデルといえます。
しかしこれが14億人の住む中国のすべての地域でうまく回るかというと疑問ですね2。
3.フランクフルター・アルゲマイネ新聞の情報(2018.11)
“両親をたまにしか訪れなかったら減点”というタイトルの記事。上の2記事よりも新しい、2018年11月のものです。加点減点の情報がザクザクでてきますドイツの記事。
この記事でも社会信用システムに対する多くの詳細はブラックボックスの中で、透明性は全くないとししつも、中国についての専門家や計画性や妥当性評価からある程度導き出すことができると言います。
一番高い得点は1300点。
加点を得る良い行いの例(軽い⇒重い)
・英雄的な行為(詳細は不明)
・借金がない、期限までに返済した
・貧乏な人を助ける
・メディアで政府を褒める
・献血する
・隣人から好かれる
・両親や年老いた家族の世話
・慈悲事業をする
減点される行いの例(重い⇒軽い)
・オンラインゲームで詐欺をする
・政府が禁止している宗教の信者
・悪い行為に対して誠意のある謝罪行為をしない
・ネットで噂を広める
・政府の批判をネットでする
・定期的に両親を尋ねない
・違法性を政府機関に抗議する
・飲酒運転や信号無視
などのようなことが書いてありました3。
4.香港,“明日科学”の情報(2018.9)
このサイトには6つの減点対象が書かれていました。
1)飛行機と長距離列車に乗るの禁止
2)インターネットの速度制限
3)名門校への入学が禁止
4)良い仕事への転職が禁止
5)国内の高級ホテルへの宿泊が禁止
6)名前が公開される
2番目のインターネット速度制限とは何か?
これの原因は、特にテロや恐怖心をあおる内容のフェイクニュースを流したり、ネットゲームにたくさんの時間を費やしたり、ネットショッピングでしょうもないものを買いあさったりする行為が減点につながり、結果ネット速度が制限されてしまうということです。ポジティブに言えば、インターネット中毒を阻止するという名目でしょうか。
また3番目の名門校への入学を禁止された例では、去年(2017年)兵役を拒否した17名の生徒に対し、高校大学への入学を禁止をされたとのこと。また、点数が低い親の子供も同じような処置を受けます。
また兵役を拒否した人には、5番目のホテル制限もされたそう。しかし高い点数を持っている人はホテルを予約した際、保証金を支払わなくていいという優遇を受けたそうです。
この記事は最後に、人々が減点を恐れて規則正しくなった⇒それが習慣化して普遍的になったことへの奨励コメントで終わっています4。
5.台湾,“聯合新聞網”の情報(2018.10)
1000点から始まる個々の評価には、6つの段階があると書いてあります。(AAA, AA, A, B, C, D)
また、信用を失った人はどのような処置をされるのか、の点について興味深い記述があります。
2017年山東萊州の法院では、3つの大手通信会社に、ブラックリストに載った人の携帯の着信音を提示した音(「老賴」提示音)に変えるよう通達を出したとのこと。そして、誰かがブラックリストに載った人に電話をかけるときは、その人の携帯にも「人民法院から、あなたのかけようとしている人はブラックリストに載っている人です4」というメッセージが送られてくるとのこと。
またあるドイツが実施した中国国民へのネット調査では80%が社会信用システムに対し、積極的な態度を示しているとのこと5。
6.まとめ
おもにドイツ語と中国語の大手サイトを調べてみた結果、一番たくさんのサイトで強調されているのが減点の基準で、「飛行機と長距離列車に乗ることへの制限」でした。このことが社会信用システムに対し、やりすぎだ!と批判が起こる主な理由だといってもいいぐらい、このことを強調しているサイトが多かった。
移動の制限がこれだけ強調されているには3つのポイントがあると私は思う。1つ目は色々不透明な中、移動の制限については中国の社会信用システム専用サイトに細かく統計まで書いてあるから。確実な事実ということで挙げられている。
2つ目は点数によって移動を制限することは、どの国も行っていないことだから。
2つ目は、政府の体制に疑惑的なジャーナリストや記者、作家、教授などの知識人が移動の制限を真っ先に受けていること。
つまり取材にいけない=中国で起きている状況を把握できない=情報のコントロール という連鎖が、政府の都合の良いように社会信用システムを使っていると見られているのだろう。
ドイツ語や中国語のサイトにあった加点と減点の基準については、中国のサイトには一切書いていない。明らかに現地調査をして得た情報だ。ドイツのサイトなどは写真と名前つきで情報源を公開しているから信頼性は高い。
しかしどのサイトもだいたい同じ内容であり、だいたいこんな感じなのだという雰囲気はつかめた。
もちろん、今回の記事に出たサイトは中国人には見れないのだけれど。
中国の長距離列車の駅は、切符を持ってないと中にすら入れない。駅の外は常に大行列。
駅の中も常に人だかり。