ゼロ冠詞の闇【ドイツ語メモ】
ドイツ語のゼロ冠詞は奥が深いです。
ここに書くのは私がゼロ冠詞の矛盾点について論理的思考で探っている内容です。答えはありません。
初級や中級の学習者が見ると単純に混乱すると思いますので、読む方は注意を。
ゼロ冠詞については一度、基礎文法で軽く解説しています。
↑ここで解説したのは初級者用のゼロ冠詞ですが、この中にある10種類のゼロ冠詞を別の視点から2つに大きく分けると
・不定冠詞の複数形であるゼロ冠詞(1種類目)
・単数形のみが一般的に使われるゼロ冠詞(2~10種類目)
に分けることが出来ます。
不定冠詞の複数形に関しては、使う場面も意味も明らかなのでいいとして、厄介なのは「単数形のみが一般的に使われるゼロ冠詞」のほうです。
これ属する単語は固有名詞や数えられない名詞、そして抽象的な名詞がありますが、今回は数えられない名詞と抽象的な名詞の中のいくつかだけを考えてみます。さらに初級で出てくる基本的な名詞にしぼって考えます。(基本的な単語でもゼロ冠詞を考えると非常に複雑です。)
まず、一般的にゼロ冠詞として習うドイツ語の基礎単語は
飲み物(水・牛乳・ジュース・アルコール・ワイン・ビールなど)
食べ物(チーズ・バター・ハム・パン・野菜・果物・肉・魚・サラダ・チョコレート・にんにくなど)
物質や材料(鉄・金・プラスチック・綿など)
抽象的なもの(空腹・喉の渇き・喜び・我慢・嫉妬・空気・寒さ・時間・お金・音楽・スポーツ)
このようなものです。
これはそれぞれの本によって書いてある名詞が違いますし、ゼロ冠詞の名詞リスト、なんてものはどの本でも、インターネットでも見たことがありませんね。
なぜでしょうか。
なぜならゼロ冠詞とは非常に定義があいまいで、また様々なカテゴリー化の方法があり、、、といってもむしろカテゴリー化すらできないほど複雑であるからです。誰も統一したゼロ冠詞の表を作れないのです。
初級で出てくるゼロ冠詞にカテゴリ―化される単語は、無理矢理そう言わないと学習者が理解し、使用できないからです。ネイティブのドイツ語教師たちはそれをわかって敢えてゼロ冠詞を無理やり定義しているのです。
そんな一歩先は闇であるゼロ冠詞の世界を少しだけのぞき見してみましょう。どれだけ困難なのか。
まず、疑問1。
ゼロ冠詞には複数形がない?
ゼロ冠詞とは不定冠詞(または全ての冠詞)がつけられない冠詞です。つまり1、2,、、と明確に数えられないのでゼロ冠詞なのです。
つまりゼロ冠詞には数えられる時につく複数形がないと考えるのは理にかなっています。
ドイツ語ネイティブ用の国民的辞書「DUDEN」でこれらのゼロ冠詞の単語に複数形があるか調べてみました。
すると、辞書に複数形が存在しない単語は
Wasser, Milch, Bier, Reis, Butter, Mehl, Obst, Fleisch, Knoblauch, Gold, Eisen, Plastik, Hunger, Durst, Geduld, Neid, Sport, Müll
などがあり、
逆に複数形が存在する単語は:
Saft, Alkohol, Wein, Gemüse, Brot, Fisch, Salat, Schinken, Schokolade, Baumwolle, Zeit, Musik, Geld, Freude
などがありました。
非常に矛盾の多い結果です。
・水は単数のみだがジュースは複数形がある
・果物は単数のみだが野菜は複数形がある。
・肉は単数のみだが魚は複数形がある。
・プラスチックは単数のみだが綿は複数形がある。
など・・。なぜこうなる?
複数形が存在しないほうの単語はもうゼロ冠詞確定ということになりますが、複数形が存在するのは一体なぜ?
考えられるのは、一つの単語の意味が一つとは限らないという事。
そこで疑問2
複数形がある単語は別の意味があるってこと?
たとえば
Saftは複数形がありました。
DUDEN辞書を見ると、Saftには「ジュース」の他に「体液・血液」という意味があり、後者の意味のほうにはmeist im Pluralと書いてあります。
*とはいえ、この表現は今使うと違和感があるほど古いそうです。
(https://www.duden.de/rechtschreibung/Saft)
しかし「ジュース」という意味のほうのSaftには「単数形のみ」などという表記はどこにもないため、複数形でも使えそうです。
そして「ジュース」といってもオレンジジュースやフルーツジュースなど、いろいろな種類があるので、「ジュースの種類」を指すときには口語ではSäfteと言われることもあるそうです。
しかし一般的にはジュースも液体なので、数えられる名詞ではないので単数形で使われることのほうが多いのですね。
つまり結論はよくわからない!その時に状況次第で複数形もたまには使える、ということでしょうか。
しかし、ここで疑問3
食べ物は明らかに一つの意味しかなくない?
野菜や果物、肉や魚に色んな意味があるとはあまり思えません。
果物は複数形がなく、野菜には複数形がある。
肉は複数形がなく、魚には複数形がある。
これはドイツ語の事実ですが、なぜこうなるのかわかりません。
しかし魚と肉は説明がつきます。
魚(Fisch)は、刺身など本来の姿かたちがなく、人が食べる用であればゼロ冠詞
そして、生きて泳いでいる魚であれば当然カウントできるのでゼロ冠詞ではない、ということです。
その反面、肉(Fleisch)は動物から来ており、カウントできる動物そのものを「肉」とは呼ばず、それぞれの動物に名前があるのでゼロ冠詞しか使えないということですね。
論理的に説明がつくこともありますね。
しかし野菜と果物は厄介です。
野菜の複数形は単数形と同じ形をしています。(単数形:das Gemüse, 複数形:die Gemüse)
基本的に野菜(Gemüse)もゼロ冠詞であることは間違いなく、
Gemüse ist gesund.(野菜は健康だ)とは言えますが、
Gemüse sind gesund.とは言えません。
また
Ich esse viel Gemüse.(私は野菜をたくさん食べる)とは言えますが
Ich esse viele Gemüse.(私はたくさんの野菜を食べる)とは言えません。
つまり複数形としての使い方ができないのです。
こう考えると、Obstと使い方が全く同じなので、複数形は存在するもののほぼ単数形でしか使われない、つまりほぼゼロ冠詞とみて良いという結論になります。
じゃーなぜ複数形があるの?
それは知らん!
また、ハム(Schinken)は教科書ではゼロ冠詞として書かれていることが多いですが、ネイティブの感覚的に言えばハムはどうやら決まった大きさがあるらしく(スライスに切る前の大きさ)、その大きなハムのことは1とカウントできるらしいです。
ソーセージなど大きさが決まっているものは数えられるそうです。ソーセージと違ってハムは決まった大きさがないんじゃないか・・と私なら思いますが、ハムは豚の太ももなので、ある程度決まった大きさがあるので数えられるという論理らしいです。
つまり一つの太もも=一つのハム
ですね。しかしスライスしてパッキングされ、スーパーにならんでいるうす切れのハムは数えることはできません。「一枚の」ハムという必要があります(eine Scheibe Schinken)
難し!
このようにひとつひとつのゼロ冠詞の単語について吟味が必要だと思われます。
その他にもゼロ冠詞の定義っていったいなんなの?ってところから考えないとそもそもゼロ冠詞について考えることも難しいですね。
次機会があれば吟味したいことは
ゼロ冠詞とは
・冠詞がつかない名詞のことを言うのか?
・不定冠詞だけがつかない名詞のことを言うのか?
という疑問ですね。
動画でも解説してみました。
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