バスケ審判を殴った留学生について思うこと


2週間ほど前に、バスケットボールの全九州高校体育科大会でコンゴから来た留学生が審判を殴って怪我をさせました。

暴力行為は当然アカンよね。スポーツ界では当たり前ですが審判って選手より高い位置にある。審判は選手やチームにとってなくてはならない存在で、選手は審判の判断には絶対的に服従しなければいけない競技が圧倒的に多い。アメフトやテニスみたいに異議をとなえたり確認できたりする競技はまだ少数です。

そんな尊重するべき審判様を、抗議どころかコートの中で10針も縫うほど殴っちゃったんだからそりゃあやばい。しかも高校生。前代未聞だと思うよ。

では留学生は一体なぜ、何にそんなに怒ったのか?

実際に画像を見てみましょう。

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動画の10秒前後での留学生のプレーがファウルと判定され、相手にフリースローが与えられています。確かにルーズボールを遅れて追いかけた際に足を無駄に動かし、相手の懐に入りすぎてしまった結果です。普通のではなく、危険なファウルをとられています。しかし留学生は不服そうであります。

1分15秒あたり。審判を殴るきっかけとなったファウルをとられたプレーがあります。それは留学生がオフェンスで、スクリーンをかけた場面。

スクリーンとは、ある味方についているディフェンスの行動を制限するプレーです。つまり特定のディフェンスの行く道を先回りして邪魔をするプレー。そのため多くはスクリーンプレイヤーとディフェンスの接触があります。
しかしこれにはルールがあって、スクリーンプレイヤ―は邪魔したい位置に立ったらディフェンスが通り過ぎるまで動いてはいけません。過度の接触を避けるためです。両足を地につけて両手を体の前でクロスさせた状態で待たなければならない。身体の軸を大幅にずらしてもアウト。

しかしファウルをとられた映像を見ると、スクリーンをかけるこの留学生の左足は明らかに浮いており、身体をくるっと動かしてディフェンスが通るタイミングで自分の身体をあてにいっている。ここがアカンのだ。実はこの半回転させる技術はもう少しタイミングが早ければやっても良かった。しかしそのタイミングでできる技術は彼にはまだなかった。だからこのファウルも合理的。

この選手の問題は、そもそもバスケットボールをするために必要な下半身がまだ定まっていないことと経験がとっても浅いこと。だから1回目は足がちゃかちゃかと動いて突っ込んでしまいファウルにつながり、2回目は動くタイミングが悪かった。

さらにの最大の問題点は、留学生が自分のプレーの何が問題なのか全く気付いていなかった。当然ファウルをとられれば不服である。それはしょうがないです。だってこの子バスケをはじめて3か月余りだったんです。まだ初心者の域。分からないに決まっている。

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一方で審判は留学生の問題点をちゃんと見抜いていた。まだ基礎段階で脚力が足りていないことも、それを留学生自身が気付いていないことも。
1度目のファウルの場面など経験者なら一目瞭然ですが、明らかに負けていたルーズボールのコーナー場面であのプレーを選択するのははっきり言って意味のない危険行為である。

なぜ危険かって?どの場面でどの程度接触をしても良く、どの場面で無理をしてはいけないか、という状況判断がまだできていないからた。公式戦ならそれに緊張感やプレッシャーも加わるからもっと危険。そういうのは経験とともに蓄積される。
さらに監督やチームメイトは注意をしたくても、外国人であるため専門的でしかも細かいニュアンスはとても伝えられなかったのだろう。それには時間がかかる。結果、審判の笛が留学生にそれダメ!とつきつける。審判とは時にそれを実践で理解させる役割も果たすのですよね。

そんな状況を分かっていたからこそ殴られた審判は留学生を訴えないといった。そしてバスケを、日本を嫌いにならないでほしいとも言った。若いのにとても良識で素晴らしい審判だと思う。留学生のせいだけにはできないことを理解している。留学生のバックグラウンドも十分に分かっていたのだろう。

私の意見では審判の吹いたファウルにはなんの非もない。なのにいきなりひどい殴られ方をして痛くて腹も立っただろうに、プライドもずたずたになっただろうにそれでも留学生をかばった上に激励までしている。心からバスケットボールを好きな審判なのだろう。将来日本の宝になるかもしれない彼の資質を大事にしたかったのだと思う。

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なのに留学生はバスケットボールをやめて帰国することになった。これはきっと自分のやったことに対する重さに気づいたことと、周りの日本人からの心無いバッシングであろうと思う。審判の素晴らしい心遣いが消え去るほどに、時にはとんでもない人種差別や執拗な嫌がらせに怖くなった気がする。

留学生は表向きはコミュニケーション不足でホームシックになったからだと言ったそうだ。もちろんそれもあるはず。日本に適応する必要がある上に寮生活なら当然だろう。

でもねでもね。延岡学園は過去にもアフリカからたくさんの留学生をとってきた。今のチームも留学生は彼ひとりではない。もう一人います。ある同級生も、彼はカタコトの日本語でコミュニケーションを取れてよく笑い、たくさんの友だちがいたと証言している。

そして、さっきの画像の中。
一度目のファウルをした彼にチームメイトが3人もサッとかけよっている。ボディーコンタクトをとりながら話しかけている選手もいる。それはフリースローの間中も納得していない彼に対してずっとフォローを続けているように見える。大事にされている印象は受ける。

もちろん、本当のことはわからない。コートでフォローをしていたように見えたチームメイトは彼に怒っていたのかもしれない。先輩後輩関係が厳しいかもしれないし、コーチによる絶対服従がある精神的につらいチームなのかもしれない。それも合わせてプレッシャーにさいなまれた彼があそこで爆発したのかもしれない。(延岡学園の監督は合理的で有名なのできっと違うと思うけど)

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けれども少なくとも部外者の私たちがこの画像からわかることは、「15歳の1年生留学生が大事な試合で、基礎もままならないまま高さと身体能力だけで試合に出されていた」という事実です。これが問題だと思う。コミュニケーションなんだかんだもあるかもしれないが彼の場合、バスケットボール選手として、準備にもう少し時間が必要だったのだ。

でもね、何人もアフリカ選手を輩出していた有名な監督がこんなことを知らないわけがない。
実はこの試合には先輩留学生がスターターで出ていたようですがファウルがかさみ、かわりに途中から彼が出ていたそうです。そしてすでにかなりの点差があいていたらしい。公式戦であれど勝ち目がないのだから今後のためにあの子に経験させておこう、と彼を試合に出したのなら合理的な気もする。

しかし先輩がファウルをとられている段階から、(まだ経験の浅い)留学生はファウル厳しい!と出る前から頭に血が上っていた可能性が高い。負の要素がたまたま重なってしまったのかも。

チームが勝つためにアフリカから連れてこられた15歳の少年。精神的にもまだまだ成熟していないうえに突然180度変わった異国での生活。しかも初心者からバスケットボールを初めて2か月で公式戦に出ていた。

彼をその環境にしてしまった人やチームのミスでしょう。とくに監督ですね。でも監督をするのも難しいですからね。留学生を入れたらもっともっと難しくなる。それを承知で延岡学園はずっと勝つことに重きを置いてきたんでしょう。実際にそれで何度も成功していた。

延岡学園は「彼の母国語ができる人を雇う」とかおかしなこと言ってるが、問題はそこじゃない。バスケットボールにあり、監督にあり、チームにある。もっともっと注意して見ててあげなければならないし、理解もしてあげなければならない。初心者からの育て方もまわりが勉強しなければならない。今回の留学生はどう見てもハンデがありすぎる状態で日本に来てバスケットボールをしていた。もっとチームで辛抱強く面倒を見てみんなで育てるべきだった。技術的にも精神的にも。大変だがそれだけの対価をもらってるんだから。母国語ができるやとわれた人がコミュニケーションをとるのではない、と思う。

それが不十分なままいきなり試合に使ってハイ、活躍してねっていいとこを先取りしすぎちゃいましたね。結果が欲しいあまりにちょっと無理してしまったのかな。

とはいえチームメイトだってまだ15,6歳の未熟な少年たちだし、チームも大事だが自分だってバスケがうまくなりたいし試合に出たい。サポートする余裕もないかもしれない。ほんとに難しい。

まあそんななかでも、こっちの都合で連れてきたんだからもう少し大事に育ててもよかったんじゃないかと悔やまれます。

そういう意味では彼も日本の高校バスケットボール界の招いた被害者だからね。結果だけ見て留学生を批判してる人、よく考えてほしいよ。

 

 

f:id:nanapupst:20180628184025j:plain今年2月のU-18世界大会でのドイツー日本戦の様子。技術云々の前にまず身長でお手上げの日本です。
日本選手平均187センチ。ドイツ平均は2メートル。

のどから手が出るぐらい、高い選手が欲しい日本チームの気持ちもわかるでしょう。