【中国】追い込まれる宅配ドライバー


前回の記事:中国の便利すぎる出前サービスの続きです。今回はその便利さの裏側について書きたいと思います。

便利さの裏には、必ず犠牲となっている人や環境がある。

少し前に香港のニュースで、出前サービス(外賣)会社に登録する労働者たちによって大規模なストライキが行われたとありました。

今回明るみに出た出前サービスの宅配ドライバーたちが置かれていた労働条件が私の想像を超えたひどさだったので、上海の労働状況の個人リサーチも含めて書いておきます。

目次:

1.上海の労働状況の一例

上海は中国の中で一番豊かで物価が高く、また賃金も高い都市です。一時間の最低賃金は20元(中国では最高額)。またあちこちにある仕事募集の張り紙を見る限り、お店などで働いた場合、上海の中心部に近い場所で一ヶ月の最低賃金は3200元程度。上海の郊外にいくと2800元というのを見たことがあります。

ちなみに最低賃金の仕事とは飲食店、街や地下鉄駅のゴミ拾いや掃除係、警備員など。一日の労働時間や休日は定かではありませんが、かなりの長時間労働っぽいです。

ちなみに中国の某IT系企業の研修生が一日7,5時間労働+週休2日でもらえる給料が8000元とかだったりするのでその差は驚愕レベルです。

また、ショッピングモールの中のある小規模なレストランで注文を取る係の中国人の労働状況は、毎日10時~21時まで(休憩3時間)で休日が365日一切ないと言っていて耳を疑いました。その言葉どおりいつ何時に通りかかっても彼は店にいました。彼はなんのために生きてるのかわからないと軽い鬱傾向でした。

とにかく、上海でさえ差がとても激しいのです。 

2.宅配ドライバーの労働状況

 上記の労働状況は職場に雇用されて勤務する人々。出前サービスのドライバーたちは委託業務です。つまり企業に雇用されずに働く請負制の人々。

市場競争の激化から大手出前サービス会社「美團」が5月1日から導入した、今現在も使われている新しい雇用条件はこんな感じだそう。

 ・給料は3キロ以内の配達で6元。配達時間は36分以内。過ぎれば罰金。

・保険料を毎日3元自動で引きとされる。しかし保険の登録はされておらず業務中に事故っても保険はでない。(実質会社のぼったくり)

・電動バイクの燃費や修理費、電話代は自腹。

・注文を拒否すると罰則を科される。

・会社指定の地図アプリは距離計算機に問題がある。(つまり正確な距離を測定されない。詐欺ですね)

・また微信やネット上で不公正な行為に不平を言えばアカウントが凍結される。

Food delivery workers in China strike over pay cuts and unfair work practices | China Labour Bulletinより)

 すごいですね。超絶ブラック。こんなんストライキする以外に選択肢がないですよね。

しかも、この会社はアプリの登録制で宅配ドライバーを雇っており、登録時に賃金と雇用条件が決定しています。重慶市でストライキに参加したあるドライバーの話によると登録時は「注文を自由に選んでもいい」という条件になっていたそう。しかし、定期的にリリースされなおす新しい雇用条件で自動的に「注文を断ると罰則」となったり「制限時間を40分から36分に短縮する」と変わったのだそう。

ひゃー。悪質。

その結果、先を急ぐあまり乱暴な運転になったり、信号無視、さらに歩行者が主に通る細い道などを無理やり通って近道をしたりクラクションをふんだんに使う宅配ドライバーが増える。明らかにぴりぴりしてる人もいます。見ててあぶないのなんのって。

そのため、条件が厳しくなった5月1日以降、中国全土で少なくとも15軒のストライキが起こったそうです。(雲南省、江蘇省、山東省、浙江省、重慶市、上海、広東省、吉林省、湖南省、広西チワン族自治区、山西省)

上海も入っていますね。

最近では6月4日に北京で抗議が起こり、作業を停止したとされています。

3.ドライバーの事故と生活状況

明確に想像するため、数字できっちり見てみましょう。上海では宅配サービス員が引き起こす死傷事故が増え、2017年8月には警察当局が大手デリバリー会社に対して交通安全基準の改善を求めたりもしています。
たとえば上海のこの記事→受伤的外卖小哥两天半死伤一人 为何事故多发?には2017年の上半期は76人の宅配デリバリー死傷者が出た(2,5日に1人)とありますが、これ、明らかにもっともっともーーーーーっと多いと思います。

上記のような労働条件で働く人々が保険も出ない状況でどれだけが病院で治療できるのよ?誰に報告できるのよ?さらに報告したところでなんのメリットがあるのよ?自分で対処するしかないやん!なので、水面下で見えない事故がもっともっとあるのは間違いないはず。さらにこんな非人道なブラック企業が把握している本当の事故数を正直にいいますかね?

また百度を検索しても1件1件の死亡事故についてはいくつか報道されていますが、全体的な事故率や死亡率のデータが見つからない。なので私は予想をはるかに超えて多いと思っています。(しかも上海警察の統計で出ている全体の交通事故率や死亡率も、数ではなくパーセントなんですよ。せこいでしょ。だから全体数が全く分からない。)

そして宅配ドライバーの生活状況。
南京に来て3年目の28歳の宅配ドライバーの例では一体いくら稼ぐのか?この記事によると(月收入輕鬆過萬?外賣小哥)一日も休まずに毎日少なくとも10時間以上働いて得る一ヶ月のお金がやっと7千元ですって。・・・これ、交通事故の原因に疲労も入ってる可能性高いね。

しかし全く無休で働くのは精神的にも体力的にも限界が来る。1か月に3日休みをもらい、一日平均35の注文をこなして6000元ぐらいだそうです。

 ・・・一回40分で35回の注文を宅配したとすると労働時間は約23時間!?ほぼ一日中やん。きっと近くの家や店が重なったときに一緒に持って行くことも多いと思うので実際はもっと少ない時間でできるのだろうけど、私、ひとつ前のブログで書いたように宅配サービス利用したときはきっちり40分かかったからね。

もし全部20分以内で宅配できたとしても11~12時間かかりますよ。ということは平均10分でお店にとりにいき、10分かけて注文者の所に行く。迷ったら万事休すのプレッシャーもあるし、渋滞してても制限時間は同じなわけやからそりゃ信号無視もするし多少無理もするわな。生産性=お金のよーなもんなんだから。

そんな状況から客観的に考えてもこの人、一日10時間どころかはるかに超えて働いている気がする。

 

4.まとめと更なる問題点

上海で手に職がなく、バイトや非正規雇用または最低賃金で働く場合、月に約3500元。多くの人はやればやるだけ稼げるという請負制の宅配ドライバーに惹かれるのも分かる気がしますね。学生とかもね。

しかし同時にドライバーの仕事は、上記の例のように6000元稼いでもバイクの維持費や罰則などを考慮すればもっと減るだろう。事故率の高さを見ても非常にリスクのある仕事であることも間違いない。あなたが親なら決して子供にはさせたくない仕事でしょう?

それでも上海を見るかぎり宅配ドライバーは街にあふれ返り、それを利用する消費者の便利快適な生活が日常的にあります。

さらにもう一つ問題視したいのは、中国の低所得層ではない国民がこのような状況に全く興味がなく、知らないということ、正確には知れない状況にあること。

宅配サービスに関して何人かの職場の中国人に質問をしてみました。

すると彼らからは「彼らの給料?8000元ぐらいだよ」「たくさん仕事すれば月に1万元とか」みたいなてきとーな答えばかり返ってくるのです。知らんなら正直にそう言えー!!しかも、なんでそんなことが気になるの?というような不思議な顔をしてきます。俺らじゃないからええやん、みたいな。つまり全く問題意識がない。(職場は大学院卒ばかりの高所得層の人たちです)

日本も深刻すぎるほど深刻な問題が山積みだけど、中国だってまだまだ解決策のみつからない問題は山積みのようです。どこの国に行っても深刻な問題は山積みですが、人口が多い分複雑ですね。

 


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