【中国】社会信用システム。加点と減点の基準は?No.3
社会信用システム調査 No.1
社会信用システム調査 No.2
のつづきです。
中国の社会信用システムの加点と減点の基準はブラックボックスと言われています。中国の外側では主にこのことが騒がれている気もします。
海外ではいろいろな憶測が飛んでいるようですが、実際にはどうなのだろう?
もともと私が社会信用システムについて中国のサイトを調べてみたくなったのは、私が接した中国人たちが加点と減点の基準について何の情報も持っていなかったから。私が点数を持っている当事者なら一番気になるところなのに!!どこまで情報を得ることができるのか?と気になったのです。
結果、中国の検索サイト(百度)には、政府の出したお告げや、罰則の強調ととにかく減点されるな!という警告ぐらいしか書かれていない。
でも国が作った社会信用システムの専用サイトがある、ということを知りました。こっちはもっと具体的で、主に結果や成果、また細かい統計が書かれてある。主に企業の情報が多い。
「信用中国」系列のサイトには企業の情報はたくさん載っていますが、個人の情報はとっても少ないです。でも私が知りたいのは企業ではなく個人のほうだ。
何をしたらレッドリスト入りし、何をしたらブラックリスト入りするのか?と言うのは私の微々たる調査能力では見つけられませんでした。公には書かれていない気もします。
しかし「信用北京」というサイトの情報を調べてた論文(参考:How China’s Sozial Credit System Currently Defines “Good” and “Bad” Behavior)に少しだけ欲しい情報があったのでここからシェアしてみます。(しかも2019年!)
「信用北京」には2018年12月の時点で、レッドリストにのっている個人の情報は156件、ブラックリストに載っている個人の情報は789件だった。全体の統計ではこんなに少ないはずはないので、なぜ載っている人といない人がいるのかはわからない。
サンプルが少なすぎるので、特定の行為を「加点」「減点」と断定することはこの論文ではしていません。しかしこんな内容がレッドリスト、ブラックリストの個人情報の欄にそれぞれに書かれていた、という特徴をイメージできるような具体例が出ています。
具体例を見てからレッドリストとブラックリストの特徴、また違いなどを考察していきます。
1.レッドリスト(守信红名单)
論文の中ではレッドリストにのっていた個人情報を、基本プロフィール、身分、自己犠牲、報酬、美徳の5パターンに分類して、記されていた内容の特徴をまとめてありました。
基本プロフィールの例
1.小さな村の大きな医者として地に足を付けて活躍した70歳の劉さん。1
2.77歳の藍爺さんは銀行から借りた500元を返そうとしている。2
3.一日に2度財布を拾った「幸運な人物」蒙阴の英語教師耿さん。3
身分の例
1.一般的な貧しい農家。父子家庭。4
2.貧しい普通の農家。父、息子、孫。文句ひとつ言わずに血縁関係の一切ない「外の人」を養う。4
3.普通の家庭。老人も子供もいる4
自己犠牲の例
1.薬戸棚を調べ、期限が過ぎた薬を直接捨てた。損失分の薬代は自分の懐から払った。4
2.毎日3食、注射をし薬を飲み、厳しい生活に耐えた。4
報酬の例
1.農民の青年起業家として、北京市農村の優秀なリーダーに選ばれた4
2.財布の持ち主は謝礼を払おうとしたが、断固拒否した4
美徳の例
1.農家の損失を防ぐため、リスクを自分の責任にしてアヒル肉を回収した4
2.一日御飯が食べられないこともあったのに、野菜を売る人を助けたり、夜中に市場に行って野菜価格の情報をつかんだりした4
3.銀行は残りのローンを減らすといったが、必ず返すといって聞かなかった。4
4.身体障碍者の組織に積極的に参加したり貧しい学生に資金を提供した4
5.三代の家族を数十年にわたって世話をした。4
6.良質の水資源の監視人として責任をもって行った4
2.ブラックリスト(失信黑名单)
ブラックリストは、サイトにあった文のなかから基本情報、実行機関、罰の原因、義務の遂行の4パターンに分類して例が出ていました。
基本情報の例
1.原告は北京の某内装工事会社で被告の北京の某文化有限会社の改装工事を担当4
2.寧陵県法院が実行させた逮捕。警察が被告人を郭家マンションで捕まえたとき、抵抗せずにうなだれた。4
実行機関の例
1.海淀法院が3月6日に警官など50名余りに出動要請、15案件を強制執行した。出动执行法官5
2.華龍区法院の執行法官がラサに出張し、現地公安と協力をした4
3.商南法院は中国の三大通信会社に協力通知を要請、信用を失った人の携帯の着信音とSNSの公開を要請。4
罰の原因
1.法院が吕被告に医療費と障害補償金など損失46万元の支払いを求めたにもかかわらず、それを行わずに遠くに逃げた。6
2.岫岩法院はある食用菌会社に、銀行に借りた380万元と利子を支払うよう命じたが、それから音沙汰がない。7
3.北京の内装会社が文化会社に改装工事を依頼され、終わったにもかかわらず、400万元あまりの費用が支払われなかった。8
義務の遂行
1.中牟法院の全力の頑張りで被告吕の拘留に成功。4
2.法院は消息不明人物をブラックリストに加え、顔写真を公開して配布した。4
(参考:How China’s Sozial Credit System Currently Defines “Good” and “Bad” Behavior,2019, 4-5)
3.レッド&ブラックリストの比較
まず目を引く違いは、レッドリストはそれぞれ本名が記載されている反面、ブラックリストでは匿名である点。(論文の中ではレッドリストの本名も隠されていますが、サイトでは実際に出ていたらしい。)
さらにレッドリストでは住所や身分、職業、家庭環境といった情報も書かれていましたが、ブラックリストでは、罰を受けた行為とその行為にたいしての国の対応が強調されています。
また行為の質の点。レッドリストではブラックリストとは比べ物にならない些細な行為(たとえば財布を拾うなど)も述べられています。しかし見る限りではブラックリストには、法廷がからむ比較的大きな犯罪行為がほとんどを占めていたと思われます。
このような大きな費用の未払いなどで1200万人もブラックリスト入りしているとは到底思えませんが、これ以上のことはでてこなかったようです。
注意なのは、このリストにのっている内容は、「これをしたら加点がもらえる」ものではありません。あくまで「良い行いをしたリストに入っている人のプロフィールや行いの例」です。
4.「良い行い」とは結局
私が探している「何をしたら加点」「何をしたら減点」の答えはここでは出ていません。
しかし「良い行い」の方向性を少し予測することはできそうです。レッドリストの例から政府が好ましいと考える行動だと推測できる点は
1.どの身分も平等に加点対象である
2.家族の世話、血縁関係のない人の長期の世話は加点対象
3.ボランティア活動は加点対象
4.受ける権利のある報酬の拒否は加点対象
5.誠実な人柄と態度
6.熱心な仕事ぶり
こんな感じだろうか。この少ない情報の中からは「自己を犠牲にして他人への奉仕ができた人」に対する評価が高いようなニュアンスがうかがえる。この自己犠牲と奉仕が「国や社会への誠実さ」という意味なのだろう。
個人的に驚いた点はこれ。プロフィールの例にあった
「77歳の藍爺さんは銀行から借りた500元を返そうとしている」
という記述。これ興味深いなぁと思ったのは、この人はお金を返したことを評価されてるんじゃないってこと。中国語で「死账」というのはお金を返すすべがないということだから、返す方法がないって意味です。
なのになんで良い行いの中に入っているのか?
それはたぶん、こういうメッセージが隠されているから。
77歳の決して若くないおじいさんが、決して高くはない額の借金(500元)のことを今も気にして返そうと気をもんでいる。
こういう意味だ。つまりこの人の場合、結果より誠実な気持ちを評価されているということだ。少しのお金を借りただけでも決して忘れず、返すすべがなくてもなんとかして頑張っているっていうのが美徳であるととらえられている感じがある。
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更にもう一つ、ボランティア活動が加点につながることについては、証拠を裏付けられるものが社会信用システム専用のサイトの中にある。
これは「レッドリスト」の中の条件⇒5つ星志願者、というところにいくとたどり着く。
そこを開けてみると、ボランティアをした総時間のリストが。
(http://jxj.beijing.gov.cn/xyData/front/creditService/initial.shtml?typeId=9)
データ管理されているようで、ここに乗っている志願者は全て1000時間以上ボランティアをした人のようだ。一番多いのは6587時間。
5つ星=レッドリストにのることなのだろうか?その定義は書かれていない。どんなボランティアをするのか、また何時間する必要があるのかもこのページにはかかれていない。でもかなりの時間ですね・・・。6587時間って274日だよ・・・!
5.「適度に悪い行い」情報はない
法にのっとった犯罪を犯した人は、当たり前だけど社会信用システムがあってもなくても裁かれる。さっきの論文にはどの国にいても罰せられるレベルの犯罪内容しか書かれていなかった。
ブラックボックスにのる、という時点でかなり点数を低くしてしまった人だろうから、ちょっと減点されたぐらいじゃあ名前は載らないでしょう。
今はどの情報を見ても個人より企業や団体の情報が多く、まだ個人までシステムが回っていないんじゃないかな、と思う。まだ2020年までに1年ぐらいあるし。2019年中に徐々に整備されてネットに上がってくる可能性が高いので、引き続き基準については観察していこうと思う。
とはいえ、海外のネットを徘徊していると中国側からは出されていない「加点と減点の対象と基準」の情報が結構出ている。
全く根拠はないのだけれども、次は社会信用システムに対する海外の反応やネット情報を調べてみます。おもにドイツ語と中国語(香港、台湾)のサイトです。
No.4につづく→社会信用システム、海外の情報と反応。No.4
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