形容詞の名詞化(1) -Adjektiv als Nomen-【ドイツ語文法45】
今回の文法はドイツ語の形容詞を名詞化させるというものです。ドイツ語ではAdjektiv als NomenまたはNominalisierte Adjektiveと呼ばれます。
さて、始めに質問ですが
「あなたはドイツ人ですか?」
とドイツ語で正しく訊けますか?
正解は
男性に尋ねる場合は
Sind Sie Deutscher?/Bist du Deutscher?
女性に尋ねる場合は
Sind Sie Deutsche?/Bist du Deutsche?
2人以上の人に同時に尋ねる場合は(男女関係なく)
Seid ihr Deutsche?
です。ちなみにDeutscherinという単語はドイツ語には存在しません。
国籍「~人です」という表現は一般的に男性名詞が基本形です。そして女性名詞は基本形に-inを付けた形です。
たとえば「日本人」は男性ならJapaner, 女性ならJapanerにinをつけてJapanerinになります。ここで確認してみましょう。女性名詞にはほぼすべて-inがついているはずです。→(世界の国籍)
しかし「ドイツ人」だけはこの基本形に即していません。女性名詞はDeutscherinにはなりません。
なぜ?
理由はJapaner(その他国籍も)とDeutscherは文法が異なるからです。簡単に言えばJapanerが名詞であるのに対し、Deutscherのほうは形容詞を名詞化させた名詞だからです。
なので「ドイツ人」という名詞は本来形容詞であるdeutschという単語を名詞化させた単語なのです。
(deutschはドイツ語という意味ではなく、ドイツ国籍という意味です。例:Sie ist deutsch.=彼女はドイツ国籍だ。ドイツ語は大文字でDeutsch)
このように形容詞が名詞化した単語はたくさんあります。しかし普通の名詞とどのように見分けるのでしょう?
その特徴を知っておきましょう。
まず形容詞が名詞化した単語が一般的な名詞と違うところは
・男性・女性・中性・複数のどの性別にもなれること
・名詞の語尾が格変化すること
です。
*ただしすべての形容詞が名詞化でき、すべての性別になれるということは決してありません。今回は基礎的な単語のみを紹介します。
一般的な名詞はder Hund(犬・男性名詞)やdas Pferd(馬・中性名詞)のように決まった性を持っており、das Hundやdie Hund, der Pferdやdie Pferdなどと勝手に性を変えることはできないし、ein Hunderやein Pferdeなどといった語尾の変化もしません。
しかし形容詞から来た名詞はたとえばneu(新しい)が、der Neue, die Neue, das Neue, die Neuenのようにどの性別にもつけることができます。さらに前につく冠詞によってein Neuer, eine Neueのように、語尾も変化します。
そしてこの語尾の変化は形容詞の格変化の文法と同じです。
なので形容詞から来た名詞の形を理解するには形容詞の格変化形を知っている必要があります。
☆☆
さてそれでは次に出てくるであろう問題。
形容詞neu(新しい)を名詞化した単語の意味はどうなるの?
例えばこんな意味になります:
der Neue /ein Neuer=新しい人(男性)
die Neue / eine Neue=新しい人(女性)
das Neue / ein Neues(新しいこと・もの)
die Neuen(新しい人々)
つまり基本的に男性名詞・女性名詞・複数名詞は人、中性名詞は抽象的な物事として表現されます。(すべてではありませんがほとんどです。)
例文で見てみましょう。
Der Neue ist gestern gekommen.
=昨日新しい人(男性)が入って来た。
Die Neue ist gestern gekommen.
=昨日新しい人(女性)が入って来た。
Die Neuen haben mit der Arbeit angefangen.
=新しい人たちが仕事を始めた。
Das Neue habe ich gestern gekauft.
=その新しいの、昨日買ったんだ。
つまりこれらの意味をまとめると
1.男性、女性、複数名詞はほとんどの場合、人になる。
2.中性名詞は人以外(物事)になる。
今回の文法45では前者を、そして次回の文法46では後者を取り扱います。
☆☆
それではこれから形容詞を名詞にする方法を学びます。
今からするのは名詞のフォームの勉強です。例はこちらです。
1)Ein deutscher Mann ist betrunken.
(あるドイツ人男性が酔っぱらっている。)
この主語の名詞を省いてdeutscherを名詞化するとこうなります。↓
2)Ein Deutscher ist betrunken.
(あるドイツ人が酔っぱらっている。)
1)の文は普通の形容詞の格変化が入った文、それが2)では名詞Mannが省略されており、その代わりに冠詞と名詞の間に入っている格変化した形容詞deutscherが大文字になる、つまり名詞化しています。
形容詞の格変化には定冠詞・不定冠詞・ゼロ冠詞の三種類がありました。
こちらが文法43でも勉強した形容詞の格変化表です。(形容詞の格変化完全版はこちらを確認ください)
Kasus | 男性 | 女性 | 複数 |
一格 | der betrunkene Mann ein betrunkener Mann |
die fremde Frau ein fremde Frau |
die blonden Kinder blonde Kinder |
二格 | des betrunkenen Mannes eines betrunkenen Mannes |
der fremden Frau einer fremden Frau |
der blonden Kinder blonder Kinder |
三格 | dem betrunkenen Mann einem betrunkenen Mann |
der fremden Frau einer fremden Frau |
den blonden Kindern blonden Kindern |
四格 | den betrunkenen Mann einen betrunkenen Mann |
die fremde Frau eine fremde Frau |
die blonden Kinder blonde Kinder |
色で分かれているように、上に定冠詞、下に不定冠詞、そして複数のところは上に定冠詞、下にゼロ冠詞が入っています。
これらの格変化した形容詞を名詞化した表がこちらです↓
Kasus | 男性 | 女性 | 複数 |
一格 | der Betrunkene ein Betrunkener |
die Fremde ein Fremde |
die Blonden Blonde |
二格 | des Betrunkenen eines Betrunkenen |
der Fremden einer Fremden |
der Blonden (Blonder) |
三格 | dem Betrunkenen einem Betrunkenen |
der Fremden einer Fremden |
den Blonden Blonden |
四格 | den Betrunkenen einen Betrunkenen |
die Fremde eine Fremde |
die Blonden Blonde |
*ゼロ冠詞の複数形二格(Blonder)は比較級と形が同じなため、使うときは定冠詞を付けるか、うしろに他の名詞をつけましょう。このままでは意味が通じにくいです。
上の表と下の表を見比べてみると、変化形はすべて同じ!そして小文字が大文字に代わっているだけなのがわかりますね。
ちなみにein betrunkener Mann(酔っ払った男性)の場合、Mannが特に重要ではなくein Betrunkener(酔っ払いの人)と言っても支障がないときに使えるものです。
たとえばein betrunkener Junge(酔っ払いの少年)で、「少年」の部分が大事であればein Betrunkenerと言ってしまうと少年の意味は消えてしまいます。名詞が消えて、「~な人」となってもOKな場合のみ使えます。
それでは形容詞→名詞でよく使われている例を一格の定冠詞でいくつか挙げておきます。
これらの名詞を先ほどの格変化にあてはめて練習してみましょう。
・klein(小さい)
→ der/die Kleine(小さい人)
*ほとんどは子供に対して使う
・groß(大きい)
→ der/die Große(大きい人)
・blond(金髪の)
→ der/die Blonde(金髪の人)
*blond以外の色、たとえばschwarz(黒)、weiß(白)、gelb(黄色)、braun(茶色)など髪の色ではなくder Schwarze(黒人)やder Weiße(白人)やder Gelbe(黄色人種)という差別的な表現になりますのでくれぐれも使わないように。
・neu(新しい)
→ der/die Neue(新しい人)
・alt(年を取った)
→ der/die Alte(老人)
*しかしder/die Alteは比較的無礼。der ältere Mannなどのほうがいいです。
・richtig(ちゃんとした)
→ der/die Richtige(ちゃんとした人)
*「正しい人」「ふさわしい人」「本物」など文によりさまざまな意味になることも多いです。
・dumm(愚かな)
→ der/die Dumme(愚かな人)
・bekannt(知っている)
→ der/die Bekannte(知り合い)
・fremd(知らない)
→ der/die Fremde(知らない人)
・tot(死んでいる)
→ der/ die Tote(死者)
・verletzt(けがをした)
→ der/die Verletzte(負傷者)
・verliebt(恋している)
→ der/die Verliebte(恋人)
・arm(貧しい)
→ der/die Arme(貧しい人)
*「かわいそうな人」な意味で使われることもしばしば。
・reich(お金持ちの)
→der/die Reiche(金持ち)
・betrunken(酔っ払っている)
→ der/die Betrunkene(酔っ払い)
・blind(盲目の)
→ der/die Blinde(盲人)
・gehörlos(耳の聞こえない)
→der / die Gehörlose(耳の聞こえない人)
・deutsch(ドイツの)
→ der/ die Deutsche(ドイツ人)
・krank(病気の)
→ der/die Kranke(病人)
・hübsch(かわいい)
→ der/ die Hübsche(かわいい人)
・jugendlich(青少年の)
→ der/die Jugendliche(青少年)
*十代の思春期の人たちにのみ使えます
・erwachsen(大人の)
→ der/die Erwachsene(大人)
・freiwillig(自発的な)
→ der/die Freiwillige(志願者)
・kriminell(犯罪の)
→ der/die Kriminelle(犯罪者)
・obdachlos(家のない)
→ der/die Obdachlose(ホームレス)
・arbeitslos(仕事のない)
→ der/die Arbeitslose(失業者)
・selbstständig(独立した)
→ der/die Selbstständige(自営業者)
・berufstätig(働いている)
→ der/die Berufstätige(就業者)
・angestellt(被雇用の)
→ der/die Angestellte(サラリーマン)
・einheimisch(地元の)
→ der/die Einheimische(地元の人)
・betroffen(狼狽した・該当した)
→ der/die Betroffene(該当者)
・angehörig(加入している)
→der/die Angehörige(家族・親族)
☆☆
それではこれらの名詞を使った例文をどうぞ。
どの冠詞、どの性別、どの格が使われているかをそれぞれ考えながら読んでみてください。
・Ein Fremder klingelt an der Tür.
=知らない人がチャイムを鳴らしている。
・Die Neue hat sich noch nicht eingearbeitet.
=その新入りの人はまだ(仕事を)スムーズにやりこなせない。
・Selbstständige haben immer viel Stress.
=自営業者はいつもたくさんのストレスがある。
・Unser Bekannter hat uns zum Essen eingeladen.
=知り合いが私たちをご飯に誘ってくれた。
・Dieses Medikament ist für Erwachsene.
=この薬は成人用だ。
・Bei dem Unfall gab es einen Toten und zwei Verletzte.
=この事故で死者一人、負傷者二人が出た。
・Die Rettungssanitäter kümmern sich um die Verletzten.
=救急隊員が負傷者を手当てしている。
・Der Tote muss noch von der Familie identifiziert werden.
=亡くなった人は家族に身元確認をしてもらわなければならない。
・Die meisten Deutsche verbringen gerne ihren Urlaub am Meer.
=ほとんどのドイツ人は休暇を海で過ごすことが好きだ。
・Die Krankenschwester versorgen die Kranken.
=看護師は病人を世話する。
・Die Zahl der Arbeitslosen steigt immer weiter.
=失業者の数はさらに増えている。
・Der Dumme verurteilt, der Kluge beurteilt.
=愚か者は批判し、利口な人は評価する。
・Karin ist erst fünf Jahre alt? Ich dachte, die Kleine wäre schon sieben.
=カリンってまだ5歳?もう7歳かと思ってた。
・Nicht nur in der Wirklichkeit, sondern auch im Internet befinden sich viele Kriminelle.
=現実だけではなく、ネットの中でもたくさんの犯罪者が存在している。
・In einer neuen Stadt bist du zunächst ein Fremder.
=新しい街では最初は新参者だ。
・Weltweit findet man viele Obdachlosen.
=世界中に浮浪者はたくさんいる。
・Etwa fünfte Erwachsene in Deutschland leidet im Laufe seines Lebens mindestens einmal an Depressionen.
=ドイツでは約5分の1の大人が人生の中で最低一度はうつ病を経験している。
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忘れないうちに練習問題もやってみよう。
動画解説はこちら↓
次回の文法46では形容詞から名詞化して、中性名詞になるとどうなるのかを解説します。
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