UMAMI☆味覚の言語化って難しくない?を考えてみる【ドイツ語メモ】


ドイツ語を含む外国語を使いだしてからよく感じていた疑問があります。

なんで味覚を表す形容詞ってこんなに少ないの?

食レポとか見てても「まろやか」とか食感、口当たり、見た目の美しさ、香り・・みたいな描写はいろいろあるんだけど、聴いていても味そのものが想像できない。とにかく言語では味が分からない。それは食レポの人のせいではなくて相応する単語が未発達なのだろう。

それとも見た目や匂いに惑わされているだけでほんとは味ってどの食べ物もそんなに変わらないのかも?

 

味覚の基本的な形容詞の日本語とドイツ語は

・甘い(süß)

・酸っぱい(sauer)

・辛い(scharf)

・しょっぱい(salzig)

・苦い(bitter)

という基本的な5つの形容詞があって、あとはこれを組み合わせた語があります。

たとえば「甘酸っぱい(süßsauer)」とか「塩辛い」とか。

 

たとえばクッキーと牛乳はどちらも基本の味を「甘い」という。確かに5つの味の中でいうと他の4つのどれにも当てはまらないから、甘いが相応なんだろうけど、クッキーの甘さと牛乳の甘さはちょっとどころかけっこう違う。

とはいえ

・milchartiger Geschmack(牛乳っぽい味)

・orangenartiger Geschmack(オレンジっぽい味)

のように「~っぽい(-artig)」とかをつけるとたちまちバリエーションが増えて何かの食材に似た味と表現できたりはしますね。

 

それでも日本の食材を外国語で表現したいときに何度も困惑を感じたことがあります。

そりゃ日本にしかない食材も多々あって、独特の味だから外国語にその表現がないのは当然なんだけど、言語化にとても苦労することが多い。

なんで言語化の必要?実際食べてもらえばいいじゃん、って思うかもしれないんですが、これは個人的な経験なんですけど、アジア諸国の人だとあまり言語化できなくても興味をもってとにかく食べてみてくれる。

 

でもドイツの特に田舎の人て得体のしれないものを先に言語化してもらいたがる。食品添加物を気にしているし、肉や乳製品が入っているか否かのこだわりもあるし、何かよくわからないものを敬遠する人もけっこういる。

さらにドイツだと食へのこだわりがアジアに比べて一般的に低いので、シンプルな味しか知らない人も多い。言い換えると同じものばかり食べているのでとにかく舌が肥えていない。一日2回パン食とかね。

いろんな味のものを食べることをそんなに楽しいことだと思っていないし、食わず嫌い的な傾向がある人も多い。

 

なので彼らは真新しい食材に遭遇したとき、先に味とか調味料の情報を聴いてから食べるか食べないか判断しようとする。だから私としてはうまく言語化してちょっとでも想像しやすくしたい。

だから具体的な単語がほしくてけっこう悩む。とはいっても私の語彙力の問題もあるけど。

 

たとえば日本の味噌を知らない人に、ナニコレどんな味?っていわれてその基本的な味を説明したいと思っても適切な表現がない。

しょっぱい?

でも「しょっぱい」を使うと塩を思い浮かべない?

 

やきそばソースとかもそう。

甘い?

でもケチャップの甘さじゃない。ヌードルに甘いものかけるの?大丈夫?みたいになる。

 

わさびは?

辛い?

いやいや辛いっていっても唐辛子みたいに舌が痛くなるような辛さではない。鼻にツーンです。

 

梅干しは酸っぱい?しょっぱい?

しかしあの梅干しのきつい味を、これらの形容詞から想像できる人って少ないんじゃないか?

最初から「めっちゃ酸っぱいから覚悟して」「うーってなる酸っぱさだよ」「レモンじゃないけどレモン」「ザウアークラウトが甘いって感じるぐらい酸っぱい」とか変な表現を使って伝えるんだけど、いざ少しかじってみると「うぇ~~」とかなる。

 

日本のカレー味だって欧米がカレーと認識しているいわゆるインドカレー風の味とは全く違ったりする。同じなのは色と名前だけ。

この違いを私の持っている言語ではとても描写できない。

 

もちろん日本の食材だけじゃないです。その例は後で出します。

☆☆☆

 

それでは、味の種類が豊富にあると仮定して、なんで味覚の形容詞が多種多様な味に対して基本的に5つぐらいしかないのか?

私は「こうじゃないかな?」と思うことが2つある。

ひとつめは、食料がありあまったり加工技術が向上して世界中のいろんな食べ物を楽しめるようになったのはごく最近だから。歴史を見ると3000年前ぐらいからほんの100年ぐらい前まで餓死は三大死因のひとつだった。今後は肥満が三大死因のひとつになりそうだけど。

パンがなければケーキを食べればいいと言った誰かが生きた時代は18世紀です。

きっとほとんどの人間が食べられる種類は相当限られていたので選択肢もなく、味覚に対する言語が複雑に発達することはなかった。

 

ふたつめは舌が感知する味覚センサーというものが存在し、それが大きく5つの部分に分かれているから。

命がけで食べ物を探していた私たちの祖先の時代は、味覚などの五感を発達させることで食べれるか食べれないかを判断していた。つまり食べ物を識別するために舌には基本的な5つの味を分類する箇所が分かれているという説がある。少なくとも近年まではこの説は有力であるらしい。だから言語もそれに合わせて発達した。

 

でもこの舌の5つは最初に出した「甘い(süß)」「酸っぱい(sauer)」「辛い(scharf)」「しょっぱい(salzig)」「苦い(bitter)」とは少し違うらしい。

舌の基本味に分類される(ていた)5つは以下↓

・甘味

・酸味

・苦味

・塩味

うま味

さっきの5つの形容詞とちょっと違って辛味がないですね。かわりにうま味があります。

新しく出てきたうま味については後で言及します。

☆☆☆

 

とはいえ、この5つ以外の味覚の表現がある言語も私が知らないだけできっとあるだろうと思います。

たとえば中国語。

中国には「四川花淑」と呼ばれる胡椒がある。とはいえ胡椒だからって「しょっぱい」「辛い」イメージで食べると全然違う。日本語で私が表現するなら「ビリビリする」が一番近い。

舌がとうがらしの辛さでヒリヒリするのではなく舌が文字どおりビリビリする。なんか弱い電気が舌を軽く触った感じ?

中国語ではその独特のビリビリにたいして「麻味」という単語を持っている。ヒリヒリの辛いは「辣味」。しょっぱいも別の表現「咸味」。このように中国語では四川花淑的なこのビリビリに対応する独特の単語を持っている。

これは昔から自然の中にあり、親しみ深い味であることから中国語圏にのみこの言葉が生まれたのだろう。

 

こういうふうに、必要性があれば単語って自然に生まれてくるものです。その連続で言語ってできてるわけですけども、私が感じるに、形容詞ってこれからダイナミックに変化していく品詞じゃないかと思う。

だって色も匂いも感情も今ある形容詞で言語化できていないものが多いと思うから。

 

今回は味覚の範囲を出たくないんですけれども、もうひとつ言いたいことは、食べ物の種類の多さは日本はどの国よりも優れている。なぜかというとなんでも抵抗なく取り入れてアレンジしちゃうから。

台湾グルメとか香港グルメとかタイグルメとか他国もいろいろあるやんと思ってる人いっぱいいるけど、半年ぐらい現地に住んでみると、どれだけ単調かが分かる。そして、食にだわりの強い人はどの国にも住めない。それぐらい日本の味の多様性は群を抜いている。

もちろんそれは多種多様の味や食べ物を生み出すために使う、食品添加物の数が世界でも群を抜いていることと関係もしている。いいか悪いかは自分で判断すればいいけれど、とにかく日本はそういう環境にあって、日本で普通に食べているだけで海外に出ると自動的に舌が肥えた人になる。

 

てことは、味覚に関する形容詞はこれから日本語からたくさん生み出されていく可能性が一番高いんじゃない?と思うわけ。なんでかっていうと日本が一番味覚に関してこだわりが強いから。

で、さらに単語っていうのは外来語という形で輸出されたり輸入されたりする。ある言語の中で作られた対象や概念が別の言語に存在しないとき、そしてその対象が世界中に広がったときには、その単語が別の言語に輸入されることになる。これが外来語。コンピューター用語はほとんど英語なのは英語圏でコンピューターが発達し、日本語の単語ができる前に日本に浸透したから。ということと同じ。

日本語からの外来語でドイツ語辞書にあるのは「Sushi」「Kimono」など。OrigamiもHarakiriもEmojiもKaroshiもそう。

 

で、さっき出てきた5番目の味「うま味」も実は日本語由来の外来語。これは1908年に昆布の中から日本人によって発見された物質で作られた味で、私たちの舌の先にこの5つ目の「うま味」を感じる部分があるということに(今のところ)なっているらしい。

うま味とはいわゆるあの化学調味料「あじの素」の味です。

これは日本で初めて作られた概念の単語なのでドイツ語の国民的辞書DUDENに「umami」という単語が形容詞として掲載されている。

とはいえドイツ人がこの単語をあたりまえのように理解するかというとそこまではいってないけど、これから確実に浸透していくはずである。

外来語の話はまた大量にあるので別の機会にしたいが、とにかく味覚の単語が日本でどこよりも早く発達する可能性は高いと思う一方で、もしかしたら「UMAMI」だけでほぼすべての味をすでに表現できているのかもしれないとも思う次第でした。

動画はこちら↓

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