冠詞の種類:所有冠詞・指示冠詞・W冠詞・量の冠詞【ドイツ語文法7】


ドイツ語基礎文法一覧

日本語で書かれたドイツ語学習サイトを見ていると、だいたい冠詞といえば定冠詞と不定冠詞の2種類の説明が書かれています。

しかし考えてみれば、名詞の前につく冠詞が、定冠詞(その)と不定冠詞(ある)というたった2つの意味のものしかないわけがありません。

たとえば「その本(das Buch)」と「ある(ein Buch)」のほかに

「私の本」また「あなたの本」と言いたかったら?

「こんな本」「そんな本」は?

また、疑問形で「どの本?」「どれぐらいの本」はなんていえばいいの?

このように、名詞の前につく冠詞は、定冠詞と不定冠詞以外にも多種多様な表現ができる語があります。いったい何種類の表現があるのか?ここではドイツ語の冠詞の種類をすべて格変化とともに見ていきます。

冠詞は全部で6種類あります。(6つ、ではなく6種類)

1)定冠詞
(Bestimmter Artikel):その(der)

2)不定冠詞
(Unbestimmter Artikel):ある/ひとつの(ein)

3)所有冠詞
(Possessiv-Artikel):私の(mein)、あなたの( dein)、彼の( sein)、彼女の( ihr) など

4)指示冠詞
(Demonstrativ-Artikel):この(dieser)、あの( jener)、こんな(solcher)、など

5)疑問の冠詞
(W-Artikel):どんな(welcher)、どんな( was für ein)、どれぐらい( wie viel)

6)量的な冠詞
(Quantifikativ-Artikel):どれかの(irgendein)、各( jeder)、いくらかの( mancher)など

このほかに、冠詞のつかない名詞というのも少しですが存在します。(Null-Artikel)

1と2が前回にやった定冠詞と不定冠詞で、そのほかに4種類の冠詞があります。ここでは3~6の冠詞類を順に見ていきます。

・所有冠詞(Possessiv-Artikel)

所有冠詞は人称代名詞の数だけあります。つまりドイツ語だと3つの単数形と3つの複数形、計6つですね。以下、それぞれの人称代名詞の所有冠詞です。

一人称単数:ich(私は)⇒mein(私の)

二人称単数:du(君は)⇒dein(君の)

三人称単数:er(彼は)⇒sein(彼の)

sie(彼女は)⇒ihr(彼女の)

一人称複数:wir(私たちは)⇒unser(私たちの)

二人称複数:ihr(君たちは)⇒euer(君たちの)

三人称複数:sie(彼らは)/Sie(あなたは)⇒ihr(彼らの)/Ihr(あなたの)

mein(私の)を例にとって格変化表にしてみます。

maskulin(男性) feminin(女性) neutral(中性) Plural(複数)
Nominativ(一格) mein meine mein meine
Genitiv(二格) meines      -s meiner meines      -s meiner
Dativ(三格) meinem meiner meinem meinen   -n
Akkusativ(四格) meinen meine mein meine

実際、mein変化は不定冠詞のein変化の前にmをつけただけであることがわかります。前の文法ページに不定冠詞の表があるので実際比べてみると分かりやすいです。

単語を入れた表です。

maskulin(男性) feminin(女性) neutral(中性) Plural(複数)
Nominativ(一格) mein Mann meine Frau mein Kind meine Bücher
Genitiv(二格) meines Mannes meiner Frau meines Kindes meiner Bücher
Dativ(三格) meinem Mann meiner Frau meinem Kind meinen Büchern
Akkusativ(四格) meinen Mann meine Frau mein Kind meine Bücher

※Mein Mannは夫、Meine Frauは妻という意味。

例文)私の本はここにある。
Mein Buch liegt hier.(中性・一格)

私は(私の)めがねを探している。
⇒Ich suche meine Brille.(女性・四格)

もうひとつ、euerを例にとって変化表をつくります。

maskulin(男性) feminin(女性) neutral(中性) Plural(複数)
Nominativ(一格) euer eure euer eure
Genitiv(二格) eures    -s eurer eures   -s eurer
Dativ(三格) eurem eurer eurem euren   -n
Akkusativ(四格) euren eure euer eure

※二格はeures/eueresどちらでもよい。
※女性、複数の一格もeure/euereどちらでもよい1

この変化表はすべての所有冠詞に当てはまります。dein, sein, unserなど、ご自身で表をつくって練習してみてください。

「めがねを探している」という例文をすべての所有冠詞で作っておきます。参考までに。

・Ich suche meine Brille.
=私は(私の)めがねを探している。

・du suchst deine Brille.
=君は(君の)めがねを探している。

・Er sucht seine Brille.
=彼は(彼の)めがねを探している。

・Sie sucht ihre Brille.
=彼女は(彼女の)めがねを探している。

・Wir suchen unsere Brillen.
=私たちは(私たちの)めがねを探している。

・Ihr sucht eure Brillen.
=君たちは(君たちの)めがねを探している。

・Sie suchen ihre Brillen.
=彼らは(彼らの)めがねを探している。

・Sie suchen Ihre Brille.
=あなたは(あなたの)めがねを探している。

※私たちのめがね=2つ以上なのでめがねも複数形にすることを忘れずに!

ひたすら所有冠詞の練習問題をやるページ。どんどん練習しましょう。

 

・指示冠詞(Demonstrativ-Artikel)

ドイツ語の指示冠詞は厳密には全部で5つあります。その中からこの初級文法でとりあげるのは3つ(dieser, jener, solcher)です。

のこりの2つもれっきとした冠詞ではあるのですが、格変化が定冠詞+形容詞、一歩進んだ文法であることと、日常会話ではあまり使わない語であるからです。

3つの語の意味はこちらです。

1)dieser=この

2)jener=その/あの

3)solcher=そのような

日本語では指示対象は、近くから遠くにかけて「この、その、あの」の3つに分かれていますが、ドイツ語では2つ「この、その/あの」のみです。つまり近いか(dieser)、遠いか(jener)の2択です。

しかしドイツ語では既出の定冠詞(der)も特定の人やものを「この」や「その」とあらわすため、dieser, jenerは、定冠詞の種類にカテゴリー化されてている学習書もあります。それぐらい非常に似た意味を持ちます。厳密には、定冠詞+指示冠詞の両方の機能をもっている、といったほうが正確でしょう。

もうひとつ、solcherという冠詞も指示冠詞に分類されます。この語は日本語の指示語の中の「こんな/そんな/このような」といった状態をあらわす語にぴったりと意味が一致します。

指示冠詞の格変化は定冠詞と非常に近いです。

dieserとjener

maskulin(男性) feminin(女性) neutral(中性) Plural(複数)
Nominativ(一格) dieser/jener diese/jene dieses/jenes diese/jene
Genitiv(二格) dieses/jenes    -s dieser/jener dieses/jenes   -s dieser/jener
Dativ(三格) diesem/jenem dieser/jener diesem/jenem diesen/jenen   -n
Akkusativ(四格) diesen/jenen dieser/jener dieses/jenes diese/jene

※注意)中性名詞の一格、二格、四格が同じ形になることが定冠詞とは異なる。定冠詞の中性名詞の格変化はdas, ,des, dem, dasで、一格と二格は同じ形にならない。solcherも同じ。

それではどんなときに定冠詞 “der” または指示冠詞 “dieser, jener”を使うのでしょうか?
たくさんの使い方がありますが、その中から基本的なもの、よく出てくるものを少し紹介します。

例1)定冠詞は会話言葉、指示冠詞を書き言葉に使われる。

・Ich möchte nicht den Mantel, sondern den anderen.

・Ich möchte nicht diesen Mantel, sondern jenen.

このコートじゃなくて、あのコートが欲しいな

どちらも同じ意味。しかし定冠詞を使った最初の文のほうが日常会話ではよく使われる。

例2)大事な語を強調する意図で使われる。

・Japaner haben die Gewohnheit, alles abzukürzen. Aus dem Supermarkt wird “SU-PA”, aus Frankfurt wird “Frank”… Diese Abkürzungen sind für Japanisch-Lernende schwer zu merken.

日本人は何でも略して言う。スーパーマーケットは「スーパー」、フランクフルトは「フランク」・・この略語は日本語学習者にとっては覚えるのが難しい。

・Lieber Leser, ich möchte Sie in diesem Buch zu einer literarischen Reise einladen.

親愛なる読者のみなさん、私は皆さんをこの本での読書の旅にお誘いしたいと思います。

例3)「今年」「今週」や「この日」「あの日」など時を正確に表すためによく使われる。

Diesen Winter werde ich Ski fahren.
年の冬、スキーに行く予定だ。)

・Ich konnte diese Woche nicht freinehmen.
週休めなかった。)

Dieser Tag ist warm, jener Tag war ziemlich kühl.
この日はあついけどあの日はけっこう涼しかった。)

 

 

・疑問の冠詞(W-Artikel)

ドイツ語の疑問詞の最初の文字はWから始まるので、疑問の冠詞はドイツ語ではW-Artikelといいます。全部で3種類。日本語の「この、その、あの、どの」の「どの」の意味を持ちます。3つとも非常に似た意味です。

またこれらの冠詞は、疑問文のほかに、感嘆詞(Ausrufe)の表現もあります。詳しくは下の例文で。

was für ein=どんな(種類の)※複数形の名詞の前につく場合はeinを省く(例10)

welcher=どの

wie viel=どれだけの(量)

1番目のwas für einは、不定冠詞“ein”の前にwas für(どんな)がつく形であるため、格変化はeinと同一です。

welcherの格変化表

maskulin(男性) feminin(女性) neutral(中性) Plural(複数)
Nominativ(一格) welcher welche welches welche
Genitiv(二格) welches    -s welcher welches   -s welcher
Dativ(三格) welchem welcher welchem welchen   -n
Akkusativ(四格) welchen welche welches welche

※指示冠詞dieserと同じ変化をします。

welcherとwas für einは非常に似た意味ですが、明確な違いがあります。簡単にいえばwelcherは定冠詞、was für einは不定冠詞と結びついています。

つまりwelcherは(この中のどれか)特定のものの中からまたはそこに実際見えているものから選ぶとき、was für einは不特定のものの中から選びます。答えるときは、welcherで聴かれた答えは定冠詞が、was für einで聴かれた答えは不定冠詞が付きます。(定冠詞と不定冠詞の使い分け方はこちら

これらは例文で理解するのがベストです。1~7は疑問詞の例文、8~は感嘆詞の例文です。

1)Was für ein Auto hättest du gern?

Ein deutsches Auto.

どんな(種類の)車が欲しいの?

答:ドイツ車かな。

☆☆

2)Was für einen Wein möchten Sie trinken?

Einen Weißwein.

どのようなワインをお飲みになりたいですか?

答:白ワインを。

☆☆

3)Was für eine Kleidung suchen Sie?

eine Pullover.

どのような服をお探しですが?

答:セーターを。

☆☆

4)Mit was für einem Flugzeug bist du geflogen?

-Mit einem Airbus A380.

なんの飛行機に乗ったの?

答:エアバスA380だよ。

☆☆

5)Welche Frau gefällt dir besser? Die Blonde oder die mit den langen Beinen?

どの女の子が気に入った?あの金髪の子?それとも足の長い子?

☆☆

6)An welcher Uni studierst du?

-Ich studiere an der Uni Heidelberg.

どの大学で勉強してるの?

答:ハイデルベルク大学で勉強してるよ。

☆☆

7)Welches Buch soll ich unbedingt lesen?

Das buch heißt “Naokos lächeln” von Haruki Murakami.

どの本を読むべきだって?

答:村上春樹のノルウェイの森っていう本だよ。

☆☆

8)Was für eine schöne Hochzeit!
(なんてすてきな結婚式なんでしょう!)

9)Was für ein guter Arzt!
(なんていいお医者さんなんだ!)

10)Was für nette Leute!
(なんて優しい人たちなんだ!)※nette Leuteは複数形なのでeinがつかない。

11)Wie viel Mühe das wieder kostet!
(どんだけまた苦労しなきゃならないんだ!)

 

 

・量の冠詞(Quantifikativ-Artikel)

量をあらわすとはおもに「どのぐらい」に答える冠詞です。厳密には9つありますが、etlicherとjedwederはほとんど使わないため、意味を知っておく程度にとどめておきます。

量をあらわす冠詞はとてもよく出てきます。全部覚えておきましょう⇓。

alle = すべての

einige = 一部の/いくつかの

manche = 一部の/多くの

mehrere = 多くの

jeder = 各

irgendein = 誰かの/何かの

irgendwelcher =どれかの

(etliche= 多くの)

(jedweder= 各(jederより強い強調))

・複数形の語は量が少ない順から
einige(20%)<manche(50%)<mehrere(80%)<alle(100%)です。

・また、jeder, irgendein, は単数形のみです。

jederの格変化表(所有冠詞と同じ)

maskulin(男性) feminin(女性) neutral(中性) Plural(複数)
Nominativ(一格) jeder jede jedes なし
Genitiv(二格) jedes    -s jeder jedes   -s なし
Dativ(三格) jedem jeder jedem なし
Akkusativ(四格) jeden jede jedes なし

einige, manche, mehrere, alleは複数形のみの格変化です。

einig- manch- mehrer- all-
Nominativ(一格) einige manche mehrere alle
Genitiv(二格) einiger mancher mehrerer aller
Dativ(三格) einigen   -n manchen   -n mehreren   -n allen  -n
Akkusativ(四格) einige manche mehrere alle

例文(この冠詞類のニュアンスは日本語で直訳しきれないので、%でだいたいどのぐらい~と感覚をつかんでください)

1)Sie hat bereits einige Mal angerufen.
(彼女はすでに回電話した。)

2)Er hat noch einige Hoffnung.
(彼はまだちょっとだけ望みを持ってる。)

3)Er war einige Woche verreist.
(彼は2~3週間旅行に出かけていた。)

4)Manche Politiker bieten gute Lösungen an.
一部/それなりにたくさんの政治家はいい政策を提示する。)

5)Manche Fragen waren schwierig, aber die meisten war einfach.
いくつかの問題は難しかったけど、ほとんどは簡単だったよ。)

6)Mehrere Nachbarn haben sich über den Lärm beschwert.
かなりの隣人が騒音に文句を言った。)

7)Wir haben noch mehrere Möglichkeiten.
(私たちには他にもまだたくさん方法があるよ。)

8)Dieses Wort hat mehrere Bedeutungen.
(この単語はたくさんの意味がある。)

9)Er war mehrere Woche verweist.
(彼は週間旅行に出かけていた。)

10)Wir haben alle Fähigkeiten eingesetzt, um unser Ziel zu erreichen.
(私たちはすべての力をその目標に注ぎ込んだ。)

11)Alle Menschen sind sterblich.
すべての人間は死にゆく。)

12)Du kannst zu jeder Zeit kommen.
(いつ来ても大丈夫だよ。)

13)Er sagt jedes Mal nein.
(彼は回断る。)

14)Jedes Kind ist einzigartig.
どの子供もユニークだ。)

―――――――――――――――

・まとめ

格変化について

定冠詞系(der)の格変化をする冠詞類:指示冠詞(dieser, jenerなど)、疑問の冠詞(welcherなど)、量の冠詞( jederなど)

不定冠詞系(ein)の格変化をする冠詞類:所有冠詞(mein, deinなど)、einがつく冠詞(was für ein、irgendeinなど)

複数形しかない冠詞:量の冠詞(einige, mancher, mehrere,alle)

単数形しかない冠詞:jeder

名詞の格変化表一覧はこちら。

 

冠詞の種類の動画解説を見る↓

 

所有冠詞の1格だけを丁寧に解説した動画↓

 

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  1. https://www.duden.de/rechtschreibung/euer_Anrede_wessen