tretenは蹴る?踏む?【ドイツ語動詞】


先にタイトルに答えておくと、ドイツ語動詞tretenは日本語では「踏む」と「蹴る」両方の意味があります。

どちらも足の動作に対する動詞ですね。

 

とはいえネイティブは「踏む」と「蹴る」を一つの動詞であらわし、日本語のように区別していないのですから、この2択で理解する必要があるのは日本語母語者です。

ネイティブの感覚については後半に紹介するとして、先に私たち日本語母語者の感覚でtretenを理解していきましょう。

 

意味の前に、tretenは現在人称変化も三基本形も不規則タイプですので、tretenの変化表を先に見ておきましょう。

treten Präsens Präteritum Perfekt
ich trete trat habe/bin getreten
du trittst tratst hast/bist getreten
er/sie/es tritt trat hat/ist getreten
wir treten traten haben/sind getreten
ihr tretet tratet habt/seid getreten
sie/Sie treten traten haben/sind getreten

 

表のとおり現在完了形(Perfekt)の補助動詞としてはhabenとseinどちらも使われます。

もう勘のいい方はピーンと来たかもしれませんが、そうなんです。

基本的にどっちかが「蹴る」でどっちかが「踏む」の意味になるんですね。(でも100%ではありません)

 

先に言ってしまうと、「蹴る」ほうは現在完了形になるとhaben、「踏む」ほうはseinを取ります。

現在完了形のhabenかseinか問題は、動く動かないとか状態が変わる変わらないとかいう覚え方を最初はしますが、

四格をとったらhaben

という文法的な鉄則があります。

動いたって四格があったらhabenになるんです。(これこそしっかり覚えておこう!fahrenも四格がついたらhabenに変身しますからね。)

 

つまり動く動詞「蹴る」の現在完了形がhabenになるってことは、たとえば「ボールを蹴る」と言いたい時のボールは四格

Ich trete den Ball.

となるわけです。

ちなみにボールを蹴ったときは

Ich habe den Ball getreten.

です。

 

他の例文も見てみましょう。

1.Die Kinder treten den Ball.

2.Er hat den Stein getreten.

3.Er tritt mich ohne Grund.

4.Er hat mich ohne Grund getreten.

 

日本語訳↓

1.子供たちがボールを蹴っている。

2.あの人は石を蹴った。

3.あいつが私を理由なしに蹴ってくる。

4.あいつが私を理由なしに蹴りよった。

☆☆

 

さて、次は「踏む」を見てみましょう。

日本語では例えば「ボールを蹴る」と同じように「うんこを踏む」と言いますね。

でもドイツ語では踏むほうは直訳すると

「うんこの中を(べちゃっと)踏む」

みたいな言い方をしなければなりません。つまり場所の前置詞をつけます。

だから~の上を踏むのか~の中を踏むのか的な問題がここで生じてきます。

 

ちなみにうんこはin+四格です。

じゃあ「水たまりを踏む」は?

これも水たまりの中を踏むためin +四格。

 

じゃ「バナナの皮を踏んじゃった」時は?

これはバナナの皮の上を踏んだからauf+四格。

 

「花や雑草を踏む」は?

これも上だからauf +四格。

(場所の前置詞の判断も難しいですね。ゆっくりやりましょう)

inとaufどっちだ?場所の前置詞(2)【ドイツ語文法31ー1】

 

それではtretenで例文を見てみましょう。

「踏む」場合は現在完了形はseinです。

1.Kinder treten gern in Pfützen.

2.Er tritt oft in Hundekacken.

3.Ich bin gestern in den Hundekacken getreten.

4.Jemand ist im vollen Zug auf meinen Fuß getreten!

5.Ich bin schon mal auf eine Bananenschale getreten.

6.Ich bin aus Versehen auf die Blume getreten.

7.Das Kind hat in eine Scherbe getreten und hat geblutet.

 

日本語訳↓

1.子供は水たまりを踏むのが好きだ。

2.あの人よくうんこ踏んでるよね。

3.昨日うんこ踏んじゃったよ。

4.満員電車の中で誰かが私の足を踏んだ!

5.一回バナナの皮踏んだことあるで。

6.うっかり花を踏んでしまった。

7.あの子がガラスの破片を踏んで血を出した。

*ガラスの破片(die Scherbe)は血が出ているので中に食い込んだと言う意味なのでinが一般的です。

だから靴の上から踏んだらaufが正しいですね。

☆☆

 

ただこのように日本語で「蹴る」と「踏む」を理解した場合、矛盾が出てきます。

「ピアノのペダルを踏む」

「ブレーキを踏む」

「アクセルを踏む」

この3つ。

日本語では全部「踏む」というから、先ほどの法則に乗っ取って文を作ると

Ich trete auf das Pedal am Klavier.

Ich trete auf die Bremse.

Ich trete auf das Gaspedal.

これはどれも正しいです。

 

しかし、本来は「蹴る」であるはずの四格をつけると

Ich trete das Pedal am Klavier.

Ich trete die Bremse.

Ich trete das Gaspedal.

これも正しい。こっちのほうが自然だというネイティブもいます。

これが四格を取る解釈としてはdudenでは「繰り返し足で操作する時」とも書いてありますが、ネイティブに訊いたらそうなの???と言われたので、繰り返し踏むという感覚では理解していないようです。

とにかくdas Pedal, die Bremse, das Gaspedal, die Kupplungの4つがtretenと出てきたときは四格目的語にしてもいいし、前置詞つきで使ってもどっちでもいい、ということです。

☆☆

 

ここまでをまとめると、

「(四格)を蹴る」の意味でよく使うのは、ボールや人や石など。残虐ですが犬や猫を蹴ってもこちらです。

「(場所の前置詞+四格)を踏む」のよく使われる表現は足、ガラスの破片、うんこ、花や雑草、バナナの皮、水たまりなど。落ち葉など地面に落ちているものならばなんでもかまいません。

が、その物体の「上」を踏むのか「中」を踏むのかは対象と状況によって異なります。ここのところはtretenの文法ではなく場所の前置詞の文法知識が必要です。

 

★★★

 

それではここから応用です。

tretenに対するネイティブの感覚を垣間見ていきましょう。

先ほども言ったようにドイツ語ネイティブはtretenを「踏む」や「蹴る」といった意味では理解していません。

日本語の踏むと蹴るの理解を細かく表現すると

踏む→上から下に地面に向かって足をおろす(むぎゅって押す感じ)

蹴る→足を後ろから前に振ってつま先で対象を当てる

こんな感じではないでしょうか。

 

しかしネイティブのtretenの使い方を見ていると、おおまかには

treten+四格のほうは、対象物が移動する

treten+場所の前置詞のほうは、対象物が移動しない

という分け方をしている感じがします。

 

ボールや石は蹴ったら飛んで行くし、人も横から蹴られたりなんかしたらまぁまぁ動きます。

道路に落ちているものは踏んでも基本的にボールのように飛んで行きません。

でも「壁を蹴る」「ドアを蹴る」なんていうときは

Ich trete gegen die Wand.

Er trat gegen die Tür.

Ich habe gegen die Wand getreten.

場所の前置詞gegenと一緒に使われます。でもなぜか現在完了形はhaben!

 

 

また体の一部を蹴った場合も同じような使われ方をします。

Der Junge hat mir gegen das Schienbein getreten.

=あの男の子、私のむこうずね蹴りやがった!

むこうずね(das Schienbein)は蹴られたらめっちゃ痛いですね。

 

とはいえ、足を踏まれたときだけはむぎゅっと下に押されますから、

Jemand ist mir auf den Fuß getreten.

=だれかが足踏んだ!

自動詞バージョンになります。

(Jemand ist auf meinen Fuß getretenも文法的には正しいが、ネイティブ的には違和感あり。実践的にはmirを入れた上の文が一番自然。)

 

だから日本語では「踏む」に分類されるブレーキやペダルやアクセルといった単語が、ドイツ語では「ちょっと動くけど制限があって自由じゃない」的な理解で、結局どっちの文法を使ってもオッケーなんじゃないかと思います。

ただこのへんになると、ネイティブや地域によってもとらえ方が変わってくるかと思いますので、固定観念にとらわれず、柔軟にいろいろな人の会話を観察するのも勉強になると思います。

 

言語の学習というのは答えが一つではなく、曖昧なものが非常に多いです。これが言語学習の醍醐味ですね。

さらに外国語を勉強するって、母国語で当たり前だと思っていて、考えたこともなかったような価値観を根本からひっくり返されるから、こんなに面白いことはないよね。

★★★

 

最後にtretenは「蹴る」と「踏む」以外にもう一つ

(どこかの場所に)入る

つまり「足を踏み入れる」という意味も持ちます。

たとえば

Ich trete ins Zimmer.

=部屋に入る

Ich trete auf den Balkon.

=バルコニーに出る

Der Schauspieler tritt auf die Bühne.

=俳優は舞台に上がる。

すべてどこかの場所に足を踏み入れると言う意味ですね。

しかしこの表現はとてもフォーメルで、ニュースや論文など書き言葉では使われますが、話し言葉で使われることはまずありません。

普通はgehenやreingehenで十分です。

参考までに。

動画解説はこちら↓

 

この「見る」という動詞も、日本語とドイツ語の感覚がかなり違って面白いですよ!

sehenは日本語の「見る」と感覚がだいぶ違う【ドイツ語動詞】

ボードゲームの週末。久しぶりに私の好きなZug um Zug!ピエールが1点しか取れず笑った!

 

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